送電線と通信線が接近交差している区間が長くなると、通信線に対して静電誘導あるいは電磁誘導などの誘導障害を及ぼすことがあるので、送電線建設時には予測計算を行って過大にならないようにする。静電誘導電圧は、送電線の対地電圧と通信線の対地静電容量、両者の相互静電容量によって決まる。
一方、電磁誘導障害は、主に送電線に地絡故障が発生した場合に生じ、中性点接地方式が直接接地の送電線において問題になりやすい。実用的な計算式として知られる深尾の式では、起誘導電流1Aあたりの誘導電圧の計算値は、周波数の他、その土地の地質係数にも依存する。送電線側で可能な電磁誘導障害の対策としては、架空地線の条数や導電率を増やす。送電線をねん架するなどがある。
【解説】
送電線と通信線が接近して施設されている場合に、送電線の電圧や電流により通信線が影響を受けることを誘導障害といい、静電誘導障害と電磁誘導障害とがある。
静電誘導障害は、各相の送電線と通信線間に静電的にアンバランスがあるときに生じるもので、平常時でも限度を超えると障害が発生する。
図のように三相電線a,b,cがの電位を持っているとき、それに隣接して通信線sがあると、sには電圧[tex:\dot{E}_s}が誘導される。この電圧を静電誘導電圧といい、次のようにして求めることができる。
通信線sと送電線との相互静電容量,sの対地静電容量を、角周波数とするから、sから大地に流れる電流
したがって、静電誘導電圧は
つまり、静電誘導電圧は、送電線の対地電圧と通信線の対地静電容量、通信線と送電線との相互静電容量によって決まる。
電磁誘導障害は、主に送電線に地絡故障が発生した場合に生じ、中性点接地方式が直接接地の送電線において問題になりやすい。
送電線の地絡事故や断線事故などにより流れる零相電流によって生じる電圧を異常時誘導電圧といい、中性点接地方式や事故携帯にもよるが、相互の誘導的結合(相互インダクタンス)によって大きな誘導電圧が発生する。
実際には、主として送電線の1線地絡事故による事故時誘導電圧の影響が大きく、電磁誘導電圧の制限値は、わが国では高安定送電線(中性点直接接地方式の超高圧送電線)の場合、故障系辱時間が0.06秒以下のとき、650V、0.1秒以内のとき430V、その他の一般送電線では300Vを基準としている。
電磁誘導電圧の計算式は、一般に竹内の式あるいは深尾の式を用いて計算し、特に必要があるときには、カーソンボラチェックの式を用いることで運用されている。
深尾の式は、実用的な式として使用されており、この式は実測結果に基づいて深尾氏が導き出した実験式で、起誘導電流1A当たりの誘導電圧は次式で表される。
ただし、:通信線に誘導される障害電圧、:地絡電流の周波数、:地質係数、:併設距離、:離隔距離
したがって、起誘導電流1A当たりの誘導電圧の計算値は深尾の式によると周波数のほか、その土地の地質係数にも依存する。
送電線側での電磁誘導障害の対策としては、電線との電磁結合の強い架空地線に、電線に流れる故障電流を打ち消す電流を流させ、起誘導電流を減少させるため、架空地線の条数を1条から2条に増やしたり、架空地線にに導電率の大きい鋼心イ号アルミ線より線(IACSR)やアルミ被鋼より線(AS線)を用いたりする方法や、送電線のねん架を完全にして、できるだけ不平衡が生じないようにする方法などがある。
通信線側での電磁誘導障害の対策としては、ルートを変更して送電線との離隔を大きくしたり、交差したりする場合はできるだけ直角とする方法や、アルミ被誘導遮蔽ケーブルのような特殊遮蔽ケーブルを採用し、遮蔽係数を60%以下にする方法、通信線と送電線の間に導電率の良い遮蔽線を設ける方法などがある。
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