塩害は配電系統の中で対策、処理が難しいものの1つである、重汚損地域における塩害事故の発生には高圧配線のトラッキングによるものがある。この発生機構は絶縁電線の表面が塩分などで汚損された状態で湿潤を伴うと、電線表面に漏れ電流が流れ、その発生熱により局部的に電気を通しにくい乾燥帯が生成される。このため、導電路が分断されて微小放電が起こり、放電箇所に炭化物が形成される。トラッキングはこれらが繰り返されることにより導電経路が形成されることである。
通常の塩分付着であれば、雨で洗い流されて問題ないが、台風時または強風時には、雨を伴わない海からの風で、広範囲において塩分を含んだ風が侵入し事故に至ることがある。
【解説】
絶縁物の表面に炭化物などが生成して導電路が形成されるトラッキングは、配電系統における塩害事故の主な要因となっている。
トラッキングは以下のような過程により発生する。
絶縁物の表面に塵芥や塩分などの汚損物質が付着する。
汚損物質が吸湿して湿潤状態になると、絶縁物表面の絶縁抵抗が低下する。
絶縁物の表面を微少な漏れ電流が流れ、ジュール熱により発熱する。
発熱により汚損物質の湿潤部に乾燥帯が生成する。
導電路が分断された乾燥帯に微少放電が発生する。
微少放電により汚損物質の炭化物が形成される。
以上を繰り返すことで導電路が形成され、地絡・短絡事故に進展する。
なお、トラッキングは高圧配電設備だけでなく、家庭用のコンセントでも埃などの堆積によって発生し、火災につながることもある。
高圧受電設備では洗浄は塩害対策として有効であるが、広範な配電線路に対応することは事実上不可能である。沿岸部など重汚損地区の配電線路に対しては、耐塩碍子による絶縁強化がほぼ唯一の対策となっている。
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