根軌跡法1

フィードバック系の一巡伝達関数のゲインを0から無限大まで変化させたときに、そのシステムの極が複素平面上に描く軌跡を根軌跡という。システムの極はその安定性や過渡応答特性との密接な関係にあるため、この根軌跡によってゲインの大きさがシステムの特性に及ぼす影響を理解するのに有効であり、制御系の設計を行う際に役立つ。以下ではまず、根軌跡の概念を紹介し、ついで根軌跡上の点が満たすべき基本的な条件であるゲイン条件と位相条件を与える。また、根軌跡のより具体的な解析的性質のいくつかについて説明する。そしてこれらの性質を順次適用すれば根軌跡の概形を容易に描くことができる。

 

・根軌跡の概念

システムの極(特性方程式の根)がシステムの安定性やステップ応答などの過渡特性と深いかかわりがあることを知った。制御系の特性を調整したいときに最も容易に変えることのできるパラメータの一つがループゲイン(一巡伝達関数のゲイン)である。これらのことからループゲインが種々の値をとるときに、システムの極の配置がひと目でわかれば、このゲインがシステムの特性に及ぼす影響を理解し、適切なループゲインを設定するのに有効であると考えられる。このような目的のための図式的方法として根軌跡法がある。根軌跡とは、一巡伝達関数のループゲインを0から\inftyまで変化させたときに、フィードバック系の極すなわち特性方程式の根が複素平面上に描く軌跡を意味する。根軌跡を描くにあたって、実際の特性根の値を詳しく計算しなくても、根軌跡が持ついくつかの性質をうまく利用することによってその概形をある程度描くことができる。これが根軌跡法の有効性を高めている。

 

【例】

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 図に示す直結フィードバック系を考える。Kはゲイン定数である。特性方程式

\displaystyle{1+\frac{K}{s(s+2)}=0}から

s^2+2s + K =(s+1)^2-(1-K)=\{(s+1)-\sqrt{1-K}\}\{(s+1)+\sqrt{1-K}\}=0

特性根s_1= -1 + \sqrt{1-K},s_2=-1-\sqrt{1-K}

となる。Kが0から\inftyまで変化したときのs_iの軌跡を考えると、

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この図のようになる。Kが0から1まで動くとき二つの特性根はs_i=-1\pm\sqrt{1-K}で与えられ、G(s)の極である0と-2から出発し実軸上を動いて両者とも-1に到達する。Kが1から\inftyまで動くとき、特性根はs_i=-1\pm \sqrt{-1}\sqrt{K-1}で与えられ、-1から出発し、-1の点を通る虚軸に平行な直線上を上下に遠ざかってゆく。この根軌跡からK \gt 0ならば二つの特性根がつねに複素平面の左半面にあることから、系が安定であることがわかる。また、0 \lt K \lt 1では実極のみであるからステップ応答が非振動的であること、さらにK \gt 1では複素極を持つので振動的となり、さらにKが大きくなるにつれて極が原点から遠ざかっていくので、ステップ応答は周期の短い1周期ごとの減衰の少ない振動状態になることなどがわかる。