安定性8 Nyquistの安定判別法2(概略2)

フィードバック制御系が実際に使用できるためには、安定でなければならないことはもちろんであるが、安定でありさえすればよいというものでもない。たとえば、一度振動が生じると、その振動が消滅するまでに長時間かかるというのでは、実用に供することはできない。

一巡周波数応答のベクトル軌跡が負の実軸と交わるとき、-1+\sqrt{-1}0の右側の点で交われば、そのフィードバック制御系は安定であったが、このとき-1+\sqrt{-1}0に近い点を通る場合と近い点を通る場合とでは同じ安定な系であっても、安定の程度に差がある。

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  \bigcirc\!\!\!\! {\scriptsize 1}\quadに対して \bigcirc\!\!\!\! {\scriptsize 2}\quadの方が信号が閉ループを一巡したときの減衰が大きく、安定度が高いことになる。この安定度は制御系の過渡特性とも密接に関連をもつ。 \bigcirc\!\!\!\! {\scriptsize 1}\quadの方が \bigcirc\!\!\!\! {\scriptsize 2}\quadよりも振動的な特性をもつ。

以上のような理由で、一巡周波数応答のベクトル軌跡が-1+\sqrt{-1}0の点に対してどの程度離れているのか、ということを定量的に表現することがフィードバック制御系の過渡特性を知る上で非常に重要になってくる。このために、位相余裕とゲイン余裕という二つの量が定義されている。

(1)位相余裕

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複素平面上に原点を中心に半径1の円を描く。次にこの平面上にベクトル軌跡を描き、円との交点をQとする。Q点における角周波数を\omega_{cg}とする。ここで、Q点に対し、原点Oから引いたベクトルOQをかんがえ、このベクトルOQと実軸のなす角を負の方向に計ったとき、この値を位相余裕と定義し\phi_mで表す。さらに\omega_{cg}をゲイン交差角周波数と呼ぶ。このとき、一巡周波数応答のベクトル軌跡は、  \bigcirc\!\!\!\! {\scriptsize 1}\,\,  \bigcirc\!\!\!\! {\scriptsize 2}\,\,を比較して明らかなように\phi_mが大きい程原点に近い位置で負の実軸と交わることになり、安定度の高いフィードバック制御系ということができる。さらに\phi_mが負の場合、このベクトル軌跡は \bigcirc\!\!\!\! {\scriptsize 3}\,\,の破線でしめすように-1+\sqrt{-1}0の左側で実軸と交わることになり、このフィードバック制御系は不安定な系となる。

(2)ゲイン余裕

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図のようなベクトル軌跡では位相余裕は大きいが、安定度が高くはない。そこで、長さ[tex:OP}からゲイン余裕

\displaystyle{g_m=20 \log \frac{1}{OP} = -20 \log OP}

を定義する。安定な自動制御系では OP \lt 1であるため g_m \gt 0となり、不安定な系では OP \gt 1であるからg_m \lt 0となる。さらに、g_m \gt 0であってもg_mの値が大きな系ほど原点近くで実軸と交わることになるため、安定性のよい制御系となる。P点でのベクトル軌跡の角周波数\omega_{cp}は位相差角周波数と呼ばれる。

(3)ボード線図と位相余裕・ゲイン余裕

位相余裕とゲイン余裕をボード線図上で考える。

まず、位相余裕について考える。一巡周波数応答G(\sqrt{-1}\omega)のベクトル軌跡が単位円と交わる点はベクトル|G(\sqrt{-1}\omega)|が1となる点である。これはボード線図上ではゲイン特性曲線が0\mathrm{dB}の線と交わる点に相当するので、そのときの位相角\phi-180^\circの線を基準にして読み取ればこれが位相余裕\phi_mになる。

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ゲイン余裕については、G(\sqrt{-1}\omega)のベクトル軌跡が負の実軸を横切る点は、ボード線図上では、位相特性曲線が-180^\circになった点に相当する。このときのゲイン特性曲線上の値を読み取りその符号を変えたものがg_mにほかならない。

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