複素平面上に虚軸と原点を中心とした半径が無限大の右半円からなる閉曲線を考える(こちらは平面と呼ぶ)。点が閉曲線上を一周するとき、対応するの値が複素平面上に描く閉曲線をのNyquist線図と呼び、こちらの複素平面は平面と呼ばれる。
が閉曲線上を時計方向に一周するときに、それに対応する上の点がのまわりを時計方向に回る回数をとする。上の図ではである。以上の準備のもとにNyquistの安定判別法は次の定理で与えられる。
定理(Nyquistの安定定理)
一巡伝達関数はプロパーな有理関数であるとし、の不安定極の個数を(重極は個と数えて)とし、のNyquist線図が点を時計方向に回る回数をとする。このとき、フィードバック系が安定であるための必要十分条件はとなることである。
一巡伝達関数の極のいくつかが虚軸上にある場合の扱いについて述べよう。この場合には閉曲線じょうの点においての値が無限大になり、このままでは回転数を調べることができない。そこで閉曲線を下図のように小さい半径の半円によって虚軸上の極を右手へ回避するように修正する。
この修正した閉曲線に対しては閉曲線が存在するので、これを求めた上で小半円の半径を0に収束させた極限の閉曲線をこの場合のNyquist線図とする。
次に、一巡伝達関数のベクトル軌跡から容易にフィードバック系の安定性を判別できることを示しておこう。この場合が安定なのでとなり、したがってフィードバック系が安定であるための条件はNyquist線図が点[-1+\sqrt{-1}0]を囲まないこと()である。
図に示すようにを0からに動かすときのベクトル軌跡が点を左に見て原点に入っていけばフィードバック系は安定であり、点を右に見れば不安定、点[-1+\sqrt{-1}0]を通過すれば安定限界にある。
一巡伝達関数が相殺できるような不安定な極と零点を持つ場合について述べよう。この場合相殺できる不安定極はフィードバック系の不安定極でもあるため、相殺前の不安定極の個数をとして用いなければならない。Nyquist線図自体は極零相殺の影響を受けないのでについては相殺後のを用いて求めればよい。
定理の証明
フィードバック系の特性多項式をとし、点が閉曲線上を動くときにが複素平面(平面)上に描く軌跡を考える。このとき点がを時計方向に一周するあいだに、対応する上の点が平面の原点の周りを時計方向に回だけ回ることを示そう。これが示されれば、の関係からを実軸に沿ってだけ平行移動したものがNyquist線図そのものであるので、Nyquist線図が平面の点の周りをまわる回数で与えられることになる。
まず、一巡伝達関数の分母多項式を、分子多項式をとすると、プロパー性の仮定よりの次数との次数はを満たす。より
と表すことができる。ただし、は一巡伝達関数の極であり、は特性方程式の根、すなわちフィードバック系の伝達関数の極である。はゲインを表す定数である。簡単のためはすべて虚軸上には存在しないと仮定する。そして、を平面上のベクトルとみて、その大きさと偏角で
と表す。すると、(*)より
が上をA→B→…→Gと移動するときに、が平面上でどのように動くかを知るために、その大きさと偏角の値がどのように変化するかを調べる。まずであるが、が虚軸上にないという仮定と、に共通因子がないからの分子、分母の次数は共に次での極限でであるから、平面上の閉曲線は原点を通らない。
他方、については、が平面の左半面にある(がの安定極)ならば、上図(a)に示すようには移動の途中ではの範囲内で増減するが、がGまで戻ったときには、出発点Aにおける値に戻る。しかし、が平面の右半面にある(がの不安定極)ならば、(b)に示すようには移動の結果(時計方向に1回転)だけ変化する。についても同様に、がの不安定極のときのみだけ変化する。したがって、の不安定極が個、の不安定極が個存在するときには、
はだけ変化する。ゆえにが上を一周する間に上の点は原点を時計方向に回だけ回転する。以上で定理の証明は完了した。
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