安定性9 Nyquistの安定判別法3

複素平面上に虚軸と原点を中心とした半径Rが無限大の右半円からなる閉曲線C_sを考える(こちらはs平面と呼ぶ)。点sが閉曲線C_s上を一周するとき、対応するG(s)の値が複素平面上に描く閉曲線\GammaG(s)Nyquist線図と呼び、こちらの複素平面G(s)平面と呼ばれる。

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 sが閉曲線C_s上を時計方向に一周するときに、それに対応する\Gamma上の点が-1+\sqrt{-1}0のまわりを時計方向に回る回数をn_Tとする。上の図ではn_T=2である。以上の準備のもとにNyquistの安定判別法は次の定理で与えられる。

 

定理(Nyquistの安定定理)

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一巡伝達関数G(s)=G_1(s)G_2(s)はプロパーな有理関数であるとし、G(s)の不安定極の個数を(k重極はk個と数えて)n_{GU}とし、G(s)Nyquist線図が点-1+\sqrt{-1}0を時計方向に回る回数をn_Tとする。このとき、フィードバック系が安定であるための必要十分条件n_{GU}+n_T=0となることである。

 

一巡伝達関数G(s)の極p_iのいくつかが虚軸上にある場合の扱いについて述べよう。この場合には閉曲線C_sじょうの点s=p_iにおいてG(s)の値が無限大になり、このままでは回転数n_Tを調べることができない。そこで閉曲線C_sを下図のように小さい半径r \gt 0の半円によって虚軸上の極を右手へ回避するように修正する。

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 この修正した閉曲線C_sに対しては閉曲線\Gammaが存在するので、これを求めた上で小半円の半径rを0に収束させた極限の閉曲線をこの場合のNyquist線図とする。

次に、一巡伝達関数G(s)のベクトル軌跡から容易にフィードバック系の安定性を判別できることを示しておこう。この場合G(s)が安定なのでn_{GU}=0となり、したがってフィードバック系が安定であるための条件はNyquist線図が点[-1+\sqrt{-1}0]を囲まないこと(n_T=0)である。

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 図に示すように\omegaを0から\inftyに動かすときのベクトル軌跡が点-1+\sqrt{-1}0を左に見て原点に入っていけばフィードバック系は安定であり、点-1+\sqrt{-1}0を右に見れば不安定、点[-1+\sqrt{-1}0]を通過すれば安定限界にある。

一巡伝達関数G(s)が相殺できるような不安定な極と零点を持つ場合について述べよう。この場合相殺できる不安定極はフィードバック系G_F(s)の不安定極でもあるため、相殺前の不安定極の個数をn_{GU}として用いなければならない。Nyquist線図自体は極零相殺の影響を受けないのでn_Tについては相殺後のG(s)を用いて求めればよい。

 

定理の証明

フィードバック系の特性多項式F(s)=1+G(s)とし、点sが閉曲線C_s上を動くときにF(s)複素平面F(s)平面)上に描く軌跡\Gamma_Fを考える。このとき点sC_sを時計方向に一周するあいだに、対応する\Gamma_F上の点がF(s)平面の原点の周りを時計方向に(n_{FU}-n_{GU})回だけ回ることを示そう。これが示されれば、G(s)=F(s)-1の関係から\Gamma_Fを実軸に沿って-1だけ平行移動したものがNyquist線図\Gammaそのものであるので、Nyquist線図がG(s)平面の点-1+\sqrt{-1}0の周りをまわる回数n_T=n_{FU}-n_{GU}で与えられることになる。

まず、一巡伝達関数G(s)の分母多項式D(s)、分子多項式N(s)とすると、プロパー性の仮定よりD(s)の次数nN(s)の次数mn\geqq mを満たす。\displaystyle{\frac{N(s)}{G(s)}}より

\displaystyle{F(s)=1+G(s)=\frac{D(s)+N(s)}{D(s)}= A_F\frac{(s-q_1)\cdots(s-q_n)}{(s-p_1)\cdots(s-p_n)}}\tag{*}

と表すことができる。ただし、p_1,p_2,\ldots,p_nは一巡伝達関数G(s)の極であり、q_1,q_2,\ldots,q_n特性方程式1+G(s)=0の根、すなわちフィードバック系の伝達関数\displaystyle{G_F(s)=\frac{G_1(s)}{1+G(s)}}の極である。A_Fはゲインを表す定数である。簡単のためp_i,q_iはすべて虚軸上には存在しないと仮定する。そして、(s-p_i),(s-q_i)s平面上のベクトルとみて、その大きさと偏角

(s-p_i)=|s-p_i|\exp(\sqrt{-1}\angle (s-p_i)),(s-q_i)=|s-q_i|\exp(\sqrt{-1}\angle (s-q_i))

と表す。すると、(*)より

F(s)=|F(s)|\exp(\sqrt{-1}\angle F(s)

\displaystyle{= A_F\frac{|s-q_1|\cdots|s-q_n|}{|s-p_1|\cdots|s-p_n|} \exp\left\{\sqrt{-1}\left[ \sum_{i=1}^n \angle (s-q_i) - \sum_{i=1}^n \angle (s-p_i)\right] \right\}}

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 sC_s上をA→B→…→Gと移動するときに、F(s)F(s)平面上でどのように動くかを知るために、その大きさ|F(s)|偏角\angle F(s)の値がどのように変化するかを調べる。まず|F(s)|であるが、p_i,q_iが虚軸上にないという仮定と、D(s)+N(s),D(s)に共通因子がないからF(s)の分子、分母の次数は共にn次でR\to \inftyの極限で|F(s)| \to |A_F| \ne 0であるから、F(s)平面上の閉曲線\Gamma_Fは原点を通らない。

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他方、\angle F(s)については、p_is平面の左半面にある(p_iG(s)の安定極)ならば、上図(a)に示すように\angle(s-p_i)は移動の途中では\displaystyle{\pm\frac{\pi}{2}}の範囲内で増減するが、sがGまで戻ったときには、出発点Aにおける値に戻る。しかし、p_is平面の右半面にある(p_iG(s)の不安定極)ならば、(b)に示すように\angle (s-p_i)は移動の結果-2\pi(時計方向に1回転)だけ変化する。\angle (s-q_i)についても同様に、q_iG_F(s)の不安定極のときのみ-2\piだけ変化する。したがって、G(s)の不安定極がn_{GU}個、G_F(s)の不安定極がn_{FU}個存在するときには、

\displaystyle{ \angle F(s)= \left[ \sum_{i=1}^n \angle(s-q_i) - \sum_{i=1}^n \angle(s-p_i) \right] }

(n_{GU}-n_{FU})\times 2\piだけ変化する。ゆえにsC_s上を一周する間に\Gamma_F上の点F(s)は原点0+\sqrt{-1}0を時計方向にn_T=(n_{FU}-n_{GU})回だけ回転する。以上で定理の証明は完了した。