Routhの安定判別法は
をもとに、Routh表と呼ばれる数表を作りその第1列の全ての要素が同符号であれば、システムが安定であるというものである。
Routhの数表の作り方を説明する。表は個の行からなり、各行の要素は以下のように定める。第1行(の行)と第2行(の行)は
とおく。ここで、はを満たす最大の整数を表す。また、は偶数のとき 、奇数のときである。
第3行以下については、の行の番目の要素をその直前の二つの行の第0列と第列の要素から
\begin{equation} r_{ik} = - \frac{1}{r_{(i+1)0}} \begin{vmatrix} r_{(i+2)0} & r_{(i+2)(k+1)} \\ r_{(i+1)}0 & r_{(i+1)(k+1)} \end{vmatrix} = r_{(i+2)(k+1)} - \frac{r_{(i+2)0}}{r_{(i+1)0}} r_{(i+1)(k+1)} \end{equation}
によりに対して順次計算する。ただし、と仮定する。また、が偶数の場合、の行の最後の要素の計算式に現れるはの行には出てこない要素であり、これは0とおく。この計算を行(の行)まで行うと表が完成する。
以上の計算により得られるRouth表の左端の要素列をのRouth数列と呼ぶ。
定理(Routhの判定条件)
の根がすべて安定根であるための必要十分条件は、Routh数列の要素が全て0でなく、同符号となることである。同符号とならない場合には、数列の途中で符号が反転する回数をとするとき、は個の不安定根と個の安定根を持つ。
証明の後に、Routhの判定法の補足としてRouth数列の計算の途中でその要素が0となった場合の扱いについて述べる。この場合、定理からはシステムは安定でないという結論が得られるだけであるが、Routh数列の計算法を少し修正することによって、中立根(0または純虚数の根のことを中立根と呼ぶ)と不安定根の個数を正確に知ることができる。の多項式をRouth表のの行の要素を用いて
と定義し、さらにとおく。するとであり、かつとの根の複素平面上での配置に関して次の補題が成立する。
の安定根、中立根、不安定根の個数をそれぞれとおくとき、
\begin{equation} {\scriptstyle \{ n_- (D_i),n_0(D_i),n_+(D_i)\} = \left\{ \begin{array}{ll} \{n_- (D_{i-1})+1 ,n_0(D_{i-1}) , n_+(D_{i-1}) \}, & r_{i0}\hbox{と}r_{(i-1)0}\hbox{同符号の場合} \\ \{n_-(D_{i-1}) , n_0(D_{i-1}),n_+(D_{i-1})+1\},& r_{i0}\hbox{と}r_{(i-1)0}\hbox{異符号の場合} \end{array} \right. }\end{equation}
が成り立つ。ただし、である。
補題の証明
実数値変数をパラメータとする多項式を定義しよう。のときとなる。またのとき
となり、
\begin{equation} r_{ik} = - \frac{1}{r_{(i+1)0}} \begin{vmatrix} r_{(i+2)0} & r_{(i+2)(k+1)} \\ r_{(i+1)}0 & r_{(i+1)(k+1)} \end{vmatrix} = r_{(i+2)(k+1)} - \frac{r_{(i+2)0}}{r_{(i+1)0}} r_{(i+1)(k+1)} \end{equation}
ゆえに、を0からまで連続的に変化させたときにの個の根が複素平面上に描く軌跡を考えると、それらはすべての根の位置から出発し、その内個の根はの根に到達し、残りの1個は無限大に発散する。しかも、以下に示すようにの虚軸上にある極は移動せず、虚軸上にない根から出発した軌跡が虚軸を横切ることはない。したがって、との安定根、中立根、不安定根の個数は無限大に発散するもの1個を除いては等しく、この無限大に発散する根の安定性を調べればよいことになる。
まず、の虚軸上の根が移動しないことを示そう。いま仮にあるに対してが虚軸上に重根を持つとすると
が成り立つ。そしてが偶数(奇数)とするとは実数(虚数)値をとり、が虚数(実数)値をとるので、上式からが得られ、したがってが成り立つ。ついで
とおくと、ならば
でなくてはならない。であることを考慮すると
したがってが得られる。これを繰り返すと結局が得られ、がに重根を持つことがわかる。ゆえにの虚軸上の根は、重複度を含めて、の値によって変化することはなく、も虚軸上に重根をもつ。よっての虚軸上にない根から出発した軌跡が虚軸を横切ることはなく、またとの中立根の個数は等しいことがわかる。
無限大に発散する根については
と表せ、したがって
であることから、が0の側からに近づくとき、が正(とが同符号)であれば、の方向に発散する。したがって、すべての軌跡が虚軸を横切らないことを考慮すれば、この軌跡はの安定根から出発したものであることがわかる。同様にして、が負(とが異符号)であれば、無限大に発散する根はに発散するのでの不安定根から出発したものであることがわかる。よって補題が証明された。
定理の証明
上の補題より、定理が以下のように誘導できる。Routh数列の要素がすべて0でなく、同符号であれば、
\begin{equation} {\scriptstyle \{ n_- (D_i),n_0(D_i),n_+(D_i)\} = \left\{ \begin{array}{ll} \{n_- (D_{i-1})+1 ,n_0(D_{i-1}) , n_+(D_{i-1}) \}, & r_{i0}\hbox{と}r_{(i-1)0}\hbox{同符号の場合} \\ \{n_-(D_{i-1}) , n_0(D_{i-1}),n_+(D_{i-1})+1\},& r_{i0}\hbox{と}r_{(i-1)0}\hbox{異符号の場合} \end{array} \right. }\end{equation}
をからまで繰り返し用いることによって、が得られ、安定根のみを持つことが示される。また符号が回反転する場合にはが得られ、個の不安定根と個の安定根を持つことが示される。
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