安定性2 安定性の定義

【定義S2】(ステップ応答に基づく定義)有理伝達関数で記述できるシステムにおいて、そのステップ応答y_s(t)があらゆる時刻において無限大に発散することなく、かつ時間の経過とともにある一定値に収束するとき、すなわち適当な定数M_yが存在して、

\displaystyle{|y_s(t)| \lt M_y \lt \infty , \lim_{t \to \infty} y_s(t) = \mbox{一定値}}

のとき、このシステムは安定であるという。

 

なお、定義の「あらゆる時刻において無限大に発散することなく」という条件は、プロパーな有理伝達関数を持つシステムの場合には常に満たされる。プロパーでない有理伝達関数を持つシステムは、そのステップ応答が時刻t=0において無限大となってこの条件を満たさないため、すべて不安定であることになる。以下に示す図は代表的なステップ応答の形と定義S2によるシステムの安定性を示す。

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 (a)は安定なシステムである。(b)および(c)は安定でないシステムであり、ステップ応答が定常状態に落ち着くかどうかによって、さらに(b)の安定限界にあるシステム(c)の不安定なシステムとに分類できる。(c)は0の極や実部が正の極を持つ場合に対応し、(b)はシステムが0の極や実部が正の極は持たないが、0でない虚数の共役な単極を持つ場合に対応する。もう一つの安定性の定義は次のように与えられる。

【定義S3】(有界入力に対する応答に基づく定義)伝達関数G(s)を持つシステムを考え、初期値が0にあるとする。このシステムに、有界な大きさの任意の入力が加えられたときの応答出力が必ず有界であるとき、すなわち適当な定数M_uに対して|u(t)| \leqq M_u, t \geqq 0ならば別の適当な定数M_yが存在して|y(t)| \leqq M_y,t\geqq 0を満たすとき、このシステムは有界入力有界出力安定(bounded-input-bounded-output stability、以下ではBIBO安定と略記する)であるという。

 

定義S2はステップ入力というただ一つの入力に対するシステムの応答特性にちゅうもくしたものであるのに対し、定義S3はある条件を満たす入力の集合に対するシステムの応答特性に注目した定義である。この定義は有理でない伝達関数を持つシステム(たとえばむだ時間要素を含むシステム)にも適用できるうえ、特性が時間的に変動する時変系、非線形系、離散的な時刻における出力の計測値から入力を決定するサンプル値系などの、より広いクラスのシステムの安定性を考察する際にもこの安定性の概念を無理なく拡張できるという長所を持つ。

以上からわかるようにS1からS3の三つの定義は、適用できるシステムのクラスが異なり、その物理的意味も一見かなり異なるが、プロパーな有理伝達関数を持つシステムのクラスに限定すると以下に示すようにこれらの定義はすべて等価であることが示せる。

 

定理 プロパーな有理伝達関数をもつシステムに関して、以下の3条件は等価である。

(1)定義S1のシステムの極の意味で安定である。

(2)定義S2のステップ応答の意味で安定である。

(3)定義S3の有界入力有界出力の意味で安定である。

 

証明

伝達関数

\displaystyle{G(s)= \frac{N(s)}{D(s)}= \frac{b_m (s-z_1)\cdots(s-z_m)}{(s-p_1)\cdots(s-p_n)} }

とし、n \geqq mとする。極p_1,p_2,\ldots,p_nのいずれかが0である場合は、3つの安定性の定義のいずれの意味においても不安定であり、したがって3条件は等価である。したがって、極が全て相異なり、かつ0とも異なる場合について証明する。

まず、(1)と(2)の等価性を示そう。高さh_0のステップ応答は

\displaystyle{Y(s)=\frac{h_0}{s}G(s)}

の逆Laplace変換で得られるから単位ステップ関数をu_s(t)とすれば、

y_s(t)=h_0 u_s(t) + h_1 \exp(p_1 t) + h_2 \exp(p_2 t)+ \cdots + h_n \exp(p_n t)

で与えられる。したがって、全ての極p_1,p_2, \ldots, p_nの実部が負であるとき、そのときのみ定義S2の条件を満たす。すなわち(1)と(2)の等価性が示された。

次に(1)と(3)の等価性を示そう。任意のシステムの任意の入力u(t)に対する出力は、インパルス応答g(t)を用いて

\displaystyle{y(t)= \int_0^t g(t-\tau)u(\tau)d\tau}\tag{*1}

で与えられる。他方、伝達関数

\displaystyle{G(s)=k_0 + \frac{k_1}{s-p_1} + \cdots \frac{k_n}{s-p_n}}

と部分分数展開できm=nのときに限りk_0 = b_mm \lt nのときk_0=0で、インパルス応答関数は

g(t)= k_0 \delta(t) + k_1 \exp(p_1 t)+ \cdots + k_n \exp(p_n t)\tag{*2}

(*2)を(*1)に代入し、p_iの実部をp_{iR}と表し、|u(\tau)| \lt M_uを用いると、

\displaystyle{\left| \int_0^t k_i \exp(p_i(t-\tau) u(\tau) d\tau\right| \leqq \int_0^t|k_i||\exp(p_i(t-\tau)| |u(\tau)| d\tau }

\displaystyle{\leqq |k_i| M_u \int_0^t | \exp(p_i(t-\tau))|d\tau \leqq  |k_i| M_u \int_0^t  \exp(p_{iR}(t-\tau))d\tau }

\displaystyle{\leqq |k_i| M_u \left| \exp(p_{iR}t) \int_0^t  \exp(-p_{iR}\tau)d\tau\right| = |k_i| M_u \left| \exp(p_{iR}t ) \left[ - \frac{1}{p_{iR}}\exp(-p_{iR}\tau) \right]_0^t \right|}

\displaystyle{= |k_i| M_u \left| \exp(p_{iR}t ) \left[ - \frac{1}{p_{iR}}\exp(-p_{iR}t) + \frac{1}{p_{iR}} \right] \right| }

\displaystyle{= |k_i| M_u \left|  - \frac{1}{p_{iR}} + \frac{1}{p_{iR}}\exp(p_{iR}t ) \right| \leqq |k_i| M_u \left| \frac{1}{p_{iR}}  \right| =\left|\frac{k_i}{p_{iR}}\right|M_u ,i= 1,2,\ldots,n }

が成立すること、および

\displaystyle{\int_0^t b_m \delta(t-\tau)u(\tau)d\tau = b_m u(t)}

であることを用いれば、

\displaystyle{ |y(t)| \leqq \left(|b_m| + \left|\frac{k_1}{p_{1R}}\right| + \cdots + \left|\frac{k_n}{p_{nR}}\right| \right)M_u}

が得られる。よって\displaystyle{M_y = \left(|b_m| + \left|\frac{k_1}{p_{1R}}\right| + \cdots + \left|\frac{k_n}{p_{nR}}\right| \right)M_u}

ととれば定義S1の条件を満たし、システムがS1の意味で安定であることが示された。

逆に実部が負でない極が存在するときには入力として

\begin{equation} u(t) = \left\{ \begin{array}{ll} 1, & g(t) \geqq 0 \\ -1, & g(t) \lt 0 \end{array} \right. \end{equation}

を用いれば、|u(t)|=1であるにもかかわらず、出力y(t)

\displaystyle{y(t)= \int_0^t |g(t)| dt}

となり、(*2)で与えられるインパルス応答g(t)が0に収束しない(無限大に発散するか定常振動状態におちいるかである)ことから、いかなるM_yを選んでもある時刻t_1が存在し|y(t_1)| \gt M_yとなる。すなわちS3の意味で安定ではない。ゆえに(1)と(3)の等価性が証明された。システムが重極を持つ場合にも同様に証明できる。